研究科委員長メッセージ21世紀社会デザイン研究科

社会デザイン学への招待

 二つの世界大戦を経験し、「戦争の世紀」「難民の世紀」と呼ばれた20世紀に別れを告げ、希望と期待をもって迎えられたミレニアム・21世紀は、米国同時多発テロという、新たな形の「戦争」とともに幕を開けました。立教大学21世紀社会デザイン研究科が「ネットワーク」「非営利組織の経営」そして「危機管理」を研究教育上のキーワードとして、非営利・公共分野にかかわる組織の運営・経営人材を輩出する日本初のビジネススクールとして設立されたのは翌2002年4月のことです。

 以来20年、前世紀からの宿題・積み残しに加え、あらゆる次元での分断・対立が一層先鋭化し、地球環境は「人新生(ひとしんせい・Anthropocene)」という新しい時代区分が登場するほどに、人間の活動により大きく変化、未曽有の自然災害が世界各地を襲う時代に突入しています。「気候正義(climate justice)/環境正義(environmental justice)」という言葉がまさにこの時代を象徴しています。それは、先進国対途上国、大人対若者・子ども、富裕層対貧困層という、あらゆるところにみられる対立・分断であり、矛盾・不正義です。つまり途上国は、先進国に比べ温室効果ガスの排出が少ないにも関わらず、気象災害や食料不足などの影響をより大きく受けています。現在の地球環境を生み出したのは、大人世代のライフスタイル・消費生活と対策の欠如によるものなのに、より大きな影響を長期にわたって受けるのは若者や子どもなど将来世代です。 同じ国の中でも、温室効果ガスをより排出する暮らしをしている富裕層より、貧困層、先住民、女性などは気象災害の被害に遭う可能性が高い。 こうした不公平や矛盾・不正義は、加害者と被害者が存在する国際的な人権問題とみなされ、まさに私たちが20年にわたって追求してきた「社会デザイン」が必要とされる時代です。

 私たち21世紀社会デザイン研究科は、多様で異なる価値観を持つ人々が共生していくための知恵や仕掛けを社会と捉え、そこでの人々の参加・参画の仕方を、従来の常識にとらわれず、大胆に組み替え、革新(イノベーション)していく思考と実践を重ねてきました。この思考と実践の過程で、私たちが重視し、研究科の知的営為の根底に据えてきたものが、領域横断的かつ分断・対立を超越する思考・思想と、セクターの垣根を越えた「協働」、学問の基礎を固めた上で全体を俯瞰する「鳥の目」、 そして地域や生活といった足元、根元からの人びとの営みを重視し、様々な領域の具体的課題に対するアプローチをはぐくむ「虫の目」です。私たちが目指すのは、夢や理想を現実のものにするために果敢に挑戦し、あきらめずに格闘してきた人々の多様な経験を「継承」し、先陣たちが築き担ってきた歴史を踏襲しつつ新たな方法論と表現を獲得していくこと、やむにやまれぬ思いから立てた「問い」や課題の解決へ向け、変革を現実のものにしていくこと、その実現のために粘り強いプロセスを歩むことです。そのための理論的・構造的な探究はもとより、現場と往復し、当事者性と内発性をそなえた実践的な研究を私たちは歓迎します。

 では皆さんが学ぶ「社会デザイン学」とは何でしょう。私たち21世紀社会デザイン研究科が考える社会デザイン学とは、《格差や排除、分断・対立が先鋭化し、地球環境に過度な負担を強いる現代社会にあって、組織や制度、文化、技術などの巨視的な視座を持ちながらも、システムに還元し得ない多様性、当事者性、生の一回性という小さな個別具体的な物語に共感しつつ、対話を促進し、架け橋となり、持続可能な共生社会を再構築又は創成するための思考と実践の学 》。これを短く端的にまとめるなら、《多様性に富んだ、持続可能な共生社会を創成するために必要な思考と実践に関する学》です。 皆さんにとって、21世紀社会デザイン研究科はおそらく他に類をみない「出会い」の場になるはずです。教員とのやりとりや院生同士の関わりあいの中から、決して単純な知識やスキルの獲得にとどまることのない実践的研究力と新たな職能とを、自らのうちにぜひ育てていただきたいと思っています。
社会デザイン学の世界へようこそ。

21世紀社会デザイン研究科委員長 長 有紀枝

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